先日、Twitter経由のご縁で初心者向けの香道体験をしてまいりました。
主宰は香人のmadokaさん。madokaさんのプロフィールは詳しくはこちらのnoteにまとめられています。
12/8(土) 午後1時半。寒さが心配でしたがお天気にも恵まれ、madokaさんの案内で普段は非公開となっている東京国立博物館の北側へ。
まずは東京国立博物館の庭園を散策
九条館
応挙館(おうきょかん)
四季に彩られるという池。陽光に輝き、写真では見えませんが虹色の池でのんびりと遊んでいるカモがとても可愛かったです。
黄金のススキやちょうど見ごろの綺麗な椛、立派な松、また木肌に反射する水面をしばし眺めます。
力強く伸びる幹が、両腕でこの美しい景色を独占したく思っているようで、面白く眺めていました。欲深さというのは人間しか持たないものでしょうか。
転合庵の茶室でいよいよ香筵が始まる
既に贅沢な時間を満喫しながら、転合庵へ到着。咲き始めの椿が出迎えてくれます。
香道には、その香り自体を聞き楽しむ「聞香(もんこう)」と和歌や文学、季節になぞらえつつ香りを当てるゲーム仕立ての「組香(くみこう)」という2種類の楽しみ方があり、今回はmadokaさんの手ほどきで「聞香」を体験しました。
6人で座布団を並べ輪になると、もう真ん中に一人か二人座れるかどうか、という小さな、それでいて赴きのある心地よい狭さの茶室で、まず簡単に説明を受けます。
当初、伽羅、沈香、白檀を一つずつ聞くとアナウンスされていましたが、「年に1、2回のせっかくの席なので」というお計らいで、残紅(ざんこう)と友千鳥(ともちどり)という伽羅を二種類とインド南部の老山白檀(ろうざんびゃくだん)を用意してくださいました。
宝箱の様な小さなお重の中に、さらに小さな紙に包まれて香木が入っています。その一段下には銀葉(ぎんよう)というプレパレートの様な道具が入っており、それぞれを香盆の上に並べた後、香包(香木を包んでいる紙)を開いてプレパレートの上へのせ、さらにそれを香炉の灰の上へ。
写真がないと想像がしづらいと思うので、以降手順の様子は割愛しますが、気になる方は調べてみてください。
残紅→白檀→友千鳥の順に聞いていきます。madokaさん曰く、晩秋から初冬へ移ろっていく季節感を意識されたということです。
陽光が描く障子に映る影絵と小さな生き物たちの鳴き声に囲まれて人生で初めての香筵が始まります。
それぞれの香の感想
残紅 (伽羅)
血の滲む大地もしくは深紅の椛
わたしが一番最後に香炉が回ってくる場所、つまりmadokaさんの左隣に座っていたのですが、炷き始めた瞬間からとてもスパイシーな香りを感じました。香炉が回ってくると胸がドキリとし、生まれて初めて香りに対し、恐ろしいという感情が起こりました。
どう表現したらいいか分からず最初は混乱していましたが、何もかも知る、物知りの大地を息をしたまま丸く削って閉じ込めたようなイメージが浮かびます。色は、血を吸ったような濡れた大地。全ての香を聞き終えた後、もう一周したのですが、二回目は真っ暗な背景にチリチリと燃え連なる火が見えました。
香の最期、伽羅は土の中で眠ってできると聞いて、とても納得感がありました。また、香筵の後に見た深紅の椛の色にも似ていました。
老山白檀
金盞花からトイプードルのふわふわの毛
残紅とは打って変わって、ほっとするようなマリーゴールド~オレンジ色の香。
二周目は、ふわふわの毛並みの良い茶色いプードル。香りの印象は、最初から人なつこいけど、二周目はさらにやわらかくなって。愛しい香りだなと思いました。
友千鳥 (伽羅)
天鵞絨に散らばる金の粒
最後の友千鳥は、織物の光沢のある天鵞絨色に金の粒が散らばっている様が浮かぶ、とてもとても美しい香りでした。三種類の中では、個人的に一番好きな香り。
山種美術館の玄関、加山又造の千羽鶴が眼裏に思い出されました。
香筵の後はお茶とお菓子でホッと一息
あっという間に香は満ち、時も満ちて、お茶と菓子の振る舞いを受けます。
後年、焙じ茶をよくお飲みになられた昭和天皇のために生み出された献上加賀棒茶。お茶好きな友人や叔母がいるのでいただくのは何度目かになります。
冬はしみじみ焙じ茶が美味しくなる季節。
この紙製の敷物に描かれている赤い実がなんとも冬らしいけれど、南天は葉が緑のままだったような気がするし、千両とは葉の形が違うし、なんだろう…。
お菓子については、ひとつひとつ産地と名前を添えて出してくれたのに、もう香の宇宙を覗いた後の頭では、到底覚えきれませんでした。
ただ、干し柿と発酵バターのミルフィーユが眼を見張るほど、食べきってしまうのが勿体無く思うほど美味しかったです。 箕(み)を器に見立てているのも面白いなと思いました。実際に使った日のことを思い出します。よいものが篩いに残るので縁起物として使われるそうです。
初めての香筵を終えて
お庭の散策から始まった初めての香道体験は、冬の日の傾き方と同じく鶴瓶落としに時が来て、この場にいることへの名残惜しさと共に一時間半の幕を下ろしました。
たった2mmの木片が、先人の知恵と遊び心から、現代においても私たちにその香りを通じて神秘的な体験をもたらしてくれる「香道」という世界。
今回その世界をちらりと垣間見ることができ、何となく世間の忙しなさや立て込むスケジュールに追われ、バタバタと年を越してしまう心にゆとりを与えてくれました。この体験のおかげで、満ち足りた幸せな心持ちでよい年越しが迎えられそうです。
madokaさん、席を共にした皆さま、そしてここまで読んでくださったあなたへお礼を申し上げます。ありがとうございました。
おまけ:帰り道、窓に映る空がマグリットの絵みたいだなと思って撮った一枚。