夜の美術館で人気作品を独り占め!東京都美術館プレミアムナイト「プーシキン美術館展-旅するフランス風景画」に行ってきた (1)

2018年5月26日土曜日、午後5時40分。既に閉館した東京都美術館のロビーの椅子に腰かけて6時になるのを待っていると、若い女性が口元に手を添え呼びかける。

「オズモール、トレンド体験に参加の皆さんお集まりくださ~い」

24/2700 の確率で見事当選!

「プーシキン美術館展-旅するフランス風景画」@東京都美術館「プレミアムナイト」事前チケット購入制で定員各回150名。限られた人数で、閉館後にじっくり展覧会を堪能でき、一般公開時にはNGな作品の写真撮影も全作品可。学芸員によるレクチャーもあり、さらにはシャンパーニュの試飲会まで参加できるという贅沢な内容で本来なら4,800円するところ、今回はなんと無料で参加ができた。

なぜこのような僥倖を得られたかというと、幅広いトレンド情報を発信するOZmall編集部が企画する「トレンド体験」へ応募したところ見事に当選したからだ(おそらく上半期の運勢は全てこの日のために注ぎ込まれた)。冒頭の呼びかけ後にされた説明では、応募数は約2700名にのぼったという。どういう基準でそのうち24名が当選されたかは定かではないが、私はコメント欄にひたすら美術全般に対する熱い想いを語ったのが功を奏したのだと思いたい。

今回はこのプレミアムナイトのレポートも交えながら、これから見に行く皆さんに役立つ予備知識やあの作品を振り返りたい皆さんのためにプーシキン美術館展-旅するフランス風景画についてまとめていく。

モスクワの実業家が買い集めたフランスの風景画を“旅”のツールに

「プーシキン美術館展-旅するフランス風景画」この美術展の命名は展示会のコンセプトをとても分かりやすく、キャッチーにまとめた素晴らしいタイトルだな、と思う。海外の美術館が展覧会名になっている場合、基本的には目玉の作品があって、それも含め、後は歴史順に並んでいることがほとんどなのだが、今回は“旅”というキーワードが絡むことで、一つ一つの作品を楽しむだけでなく、作品と作品とのつながりや背景が、絵画に詳しくない人でも、欧州の地理や歴史が頭にない人でも、分かりやすく楽しめるように工夫されている。風景画というジャンルが辿った歴史、また風景画と共に変遷していく歴史を旅する感覚や、画家の想像の世界へ旅する感覚、パリの街に訪れ、その時代を生きた人々とともに通りを歩く感覚――幾重もの“旅”の感覚を味わえるのだ。

しかしこのタイトルには、「プーシキンはロシアにあるのになぜフランスの風景画なのか」という疑問が浮かぶ方もいるかもしれない。ロシアの実業家たちが愛好し収集していたフランスの風景画が戦争を経て散らばった後、ひとところに集められプーシキン美術館に辿り着いたという至極明快なストーリーがあるのだが、どことなく、東京ディズニーランドがの所在地が千葉、東京インテリアが東京にはないという事実に違和感を覚えるのと似た感覚に陥ってしまう。それはさておき。今回の美術展の面白みの一つには、この実業家たちのキャラクターや好みが垣間見えるという点もある。

鑑賞の途中にはコレクターの詳細な紹介パネルもある

展覧会の見所ともいえる2作をコレクションしていたシチューキン

出展 : 東京都美術館公式ウェブサイトより

本展示の看板作品としてちらしを飾ったモネの《草上の昼食》とアンリ・ルソーの《馬を襲うジャガー》。見所ともいうべきこれら2点をコレクションしていたのが、セルゲイ・イワノヴィチ・シチューキンという繊維産業で財を成した実業家だ。印象派以降の前衛絵画を主に集めていたという。彼のコレクションからは13点が出品される。

シチューキンと共にプーシキン美術館の中心となったモロゾフのコレクション

もう一人、シチューキンに並びプーシキン美術館のフランス絵画コレクションに大きく寄与した大富豪がイワン・アブラモヴィチ・モロゾフである。気になって調べたが、チョコレートで有名なモロゾフとは関係がないそうだ。プーシキン美術館展に展示される65作品中の内19点が彼の所蔵からで、シチューキンよりも装飾的で穏やかな作品を好んだという。

風景画に癒されよう – プーシキン美術館展の疲れない見方

美術館に足を運んだはいいものの、中盤に差し掛かるころには疲れて後半の絵は見ずに帰ってきてしまった――という方もいるのではないだろうか。そんな経験から美術館に行くのは億劫というイメージが根付き、なかなか気軽に足を運べなくなってしまった方へ、鑑賞の仕方を伝授したい。まず一つ目の作品からまじまじと時間をかけて見るのを辞めること。また、展示の入口に置いてある作品リストで会場の構造を把握し、各エリアにどれくらい滞在するかプランを立ててから周るのも、次の予定があったり滞在時間が決まっている場合にはオススメだ。

絵画の見方にルールはない。もちろん、最初から最後まで鑑賞の流れを意識して作品は並べられているが、一から十までじっくりと見ないといけないルールはないし、列に並ぶ必要もない(特定の人気作品の前でロープが貼られ列になっているような時はのぞく)。逆に気に入った作品の前では、ある程度周りへの配慮を忘れなければ、どれだけの時間眺めていたっていい。

それなのに日本の企画展はどこへ行っても、大抵最初のフロアが一番混んでいて、出口に近づくにつれ人がまばらになっていく。今回のプレミアムナイトでも、150人しかいないのにも関わらず、同じ現象が起こっていたことにはいささか驚いた。驚いたので私は地下階の展示はすっとばして、1F第3章の「大都市パリの風景画」というテーマのエリアから見ていくことにした。プレミアムナイトにおいては、ここからほぼ貸切状態である。

とにかく折角美術館に立ち寄ったのに混雑で気が削がれそうな場合には、最初のエリアはとりあえずスキップして、興味のあるところから見ることを推奨する。

プーシキン美術館展では全65作品が鑑賞できる。企画展にしては少な目といえる点数であるし、6章に分かれ、それぞれの章ごとにテーマと絵画の傾向がある。全体の流れをざっくりと言えば後になるにつれより近代に近づき、色彩も豊かになっていく。章ごとのテーマも掴みやすく、例え順番を追わずとも、気になるダンジョンを選んで旅をするような感覚で見て行けるので、気楽に鑑賞できる企画展だと思う。

ここからは、章ごとの概要と感想を列記していく。

第1章 近代風景画の源流

「絵の背景」という役目以上のものを持たず、主題の飾りとしてしか扱われることがなかった「風景」がジャンルとして確立していくまでの時代の絵画が並ぶ。先ほど疲れない見方のコラムで最初の作品からまじめに見ない事と述べたが、プーシキン美術館展においては、最初の一作目がなかなかに見ごたえのある大作である。神話を主題としたクロード・ロランの《エウロペの掠奪》である。

第1章は、鑑賞者の眼に堪えうるための“理想的な風景”を描く精緻な絵が多い。章の前半は神話を題材にしたものやイタリア、特にローマの風景が多く描かれており、「廃墟の画家」と呼ばれたユベール・ロベールの絵もある。

ユペール・ロベール《水に囲まれた神殿》

わたしはこちらのフランソワ・ブーシェ作《農場》という絵が気に入った。

第2章 自然への賛美

第1章とは打って変わって、19世紀前後になると現実に則した風景画が主流となっていく。絵は、森の中や動物たちなど、のどかで郷愁を誘うような絵が並ぶ。

私の好きな画家であるジャン=バティスト・カミーユ・コローの《夕暮れ》は、昔の写真がカラーになって甦ったような、はたまた鮮やかだった思い出が時を経て色褪せセピア色に焼け焦げてしまったような、どちらとも言えない色合いがたまらない。

レオン=オーギュスタン・レルミット《刈り入れをする人》の黄金色に輝く麦畑と空・女性たちの青いスカートが成すコントラストも美しかった。

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